「ボヘミアガラス」って知ってる? 〜チェコの宝石みたいなガラスとの出会い〜

「ボヘミアガラス」って知ってる? 〜チェコの宝石みたいなガラスとの出会い〜_image

文/金山 靖
撮影/深瀬 典子(G.P.FLAG)

「ガラス」とひとことで言っても世の中には様々なガラス製品があります。世界のガラスを求めてたどり着いたチェコ雑貨の専門店「チェドックザッカストア」。そこで巡り会ったのは「宝石のようなガラス」でした。
今企画は3回に渡り、チェドックザッカストアの店主、谷岡さんにチェコのガラス製品の魅力とチェコ文化を伺います。第1回は、チェコ雑貨を語る上で欠かせない「ボヘミアガラス」。あまり聞き馴染みのないこのガラス、「ボヘミアガラス」って一体なんだろう?

ビルの狭間にチェコが出現!? 「チェドックザッカストア」

「チェドックザッカストア」は高層ビルに囲まれた静かなスペースで営業する、隠れ家のようなお店。店内はチェコ雑貨が所せましと並んでいます。商品のラインナップは、ガラス製品や絵画、本、玩具、インテリア小物、小型スーツケースなど多種多様。ドイツ雑貨も一部扱っており、店頭スペースで特集を行うこともあります。

店主の谷岡さんは、チェコの絵本が好きだったことが高じて、チェコ雑貨やチェコ文化に興味を持ち、「チェドックザッカストア」を開店したそう。
(写真提供:チェドックザッカストア)

店主の谷岡さんは、チェコの絵本が好きだったことが高じて、チェコ雑貨やチェコ文化に興味を持ち、「チェドックザッカストア」を開店したそう。
(写真提供:チェドックザッカストア)

宝石のような「ボヘミアガラス」はチェコが世界に売り出したブランドだった

お店に入って、すぐ目にとまったショーケース。その中には色とりどりのガラス製品が並んでいます。グラスからお皿、香水瓶、小物ケース、花瓶などデザインもサイズも多種多様。これらのガラス製品は「ボヘミアガラス」だと、店主の谷岡さんが教えてくれました。

様々な色や形のガラス製品が並ぶ。
(画像提供:チェコザッカストア)

様々な色や形のガラス製品が並ぶ。
(画像提供:チェコザッカストア)

ボヘミアガラスとは

チェコスロバキア時代、昔からガラス製品作りが盛んだったボヘミア地方のガラス製品を国の特産品として世界的に売り出すために、当時の国営企業ヤブロネックスが「ボヘミアガラス」と名付けたのが始まり。
現在はチェコのボヘミア地方で作られたガラス製品の総称となっています。

カットが美しい「クリスタルガラス」

「貼ってあるシールは製品の品質を証明するものですが、よく見るとチェコスロバキアと書いてあるんです。単純に考えても作られたのは30年以上前。当時のチェコスロバキア政府が輸出品としてボヘミアガラスに力を入れていた時代の商品です。1枚のシールからそんな歴史がわかるのが面白いですよね。はがすのがもったいなくなります(笑)」

「多くのボヘミアガラスは型に流し込んで作りますが、このクリスタルガラスは、大まかな形を作った後で、この模様にカットしているんです。日本の切子ガラスみたいですよね」

「多くのボヘミアガラスは型に流し込んで作りますが、このクリスタルガラスは、大まかな形を作った後で、この模様にカットしているんです。日本の切子ガラスみたいですよね」

宝石の名をあしらった美麗なガラスの数々

「ボヘミアガラスには、宝石の色を模したガラス製品があります。『マラカイトガラス』は落ち着いたグリーンが本当にきれいで、私も一番好きなガラス製品です。こういった色ガラスで初めて作られたのがマラカイトガラスですが、これは最初からマラカイト鉱石の色を目指して作り始めたそうです。
ガラスは化学物質なので、染料では色がつかず、化学反応で色を出さないといけません。何を混ぜてこの色を出しているかは明かされていないのですが、昔は本物のマラカイトの粉末を入れて作っていました。宝石を粉末にして混ぜるって贅沢ですよね」

マラカイトガラス。一見ガラスには見えない重厚さがある。ボヘミアガラスを掘り下げていけば、いつか本物のマラカイト粉を入れたものにも出会えるかも。

マラカイトガラス。一見ガラスには見えない重厚さがある。ボヘミアガラスを掘り下げていけば、いつか本物のマラカイト粉を入れたものにも出会えるかも。

マラカイトガラス以外にも、宝石の名を冠したガラスがあります。
「黒がオニキス、紫がアメジスト、ちょっと青が鮮やかすぎるけど、ラピスラズリ。これらもガラスに何かを入れて化学反応で色を出しています。ボヘミア地方のヤブロネツという街の近くにガラス学校があって、そこでは様々な色ガラスを作るための研究がされているんです。この色には、学校で得たノウハウと長年の歴史で培った知見が活かされているはずです」

右からオニキス、アメジスト、ラピスラズリ。
一見、陶磁器にも見える質感。花瓶やオブジェとして部屋に飾ると映えそう。

右からオニキス、アメジスト、ラピスラズリ。
一見、陶磁器にも見える質感。花瓶やオブジェとして部屋に飾ると映えそう。

昼と夜で違う顔を見せる「アレキサンドライトガラス」

アレキサンドライトガラスは、白熱灯がついているときは紫で、蛍光灯がついているときは水色に見えるんです。太陽光でも紫になるので、昼は紫、夜は水色になります。ここにあるアレキサンドライトガラスはデザインも変わっていますよね。大きいものは花瓶なんですが、チェコでは花を飾ったりせずインテリアとして使う場合が多いです。デザインも使い方も独特なのが、ボヘミアガラスの魅力のひとつかなと思います」

白熱灯に照らされているときは紫。

白熱灯に照らされているときは紫。

蛍光灯に照らされると水色に。

蛍光灯に照らされると水色に。

ファンが多い「ウランガラス」も独特のデザイン

アレキサンドライトと並び、変色するガラスとして人気なのが「ウランガラス」です。
「紫外線が当たると蛍光色に発色するウランガラスで作られた置物。ウランガラスというと実用的なお皿やグラス、抽象的なオブジェが多いんですが、ボヘミアガラスはかわいいクマ(笑)。こういうところがとてもチェコっぽくて、好きですね(笑)」

MuuseoSquareイメージ

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暗闇では蛍光色で浮かび上がる。クマだからなんだか可愛い。
(画像提供:チェドックザッカストア)

自由でどこか懐かしい、ボヘミアガラスを楽しもう

MuuseoSquareイメージ

他にも、店内は多彩なガラス製品が並びます。それらはどれも、ちょっと懐かしさがある感じ。この雰囲気がチェコらしいと谷岡さんは話します。
「うちではヴィンテージやアンティークものも置いていますが、新しめなものもちょっと懐かしさがあるんです。チェコの製品は、日本人から見ると素朴でレトロなデザインが多いんですよ。ガラス製品も例外ではありません。キラキラしていながらも郷愁を感じるところに惹かれますよね。私も古いものが好きで、写真でしか見られなかったものを、手に入れたくなるんです。古いものに囲まれたり身につけたりすると、なんだか落ち着くんですよね。だからお店番をしているとき、すごく楽しいです(笑)」
宝石みたいでどこか懐かしい。ボヘミアガラスに惹かれてしまう理由がわかった気がします。ガラスを通じてチェコという遠い国の文化を知ることも面白く、その魅力は深まるばかりです。



ーおわりー

File

CEDOKzakkastore

CEDOKzakkastore チェドックザッカストアは 東京、浅草にあるチェコのガラス製品などの美術工芸品やチェコの家具、チェコの絵本、絵画、リトグラフなどを扱うショップ&ギャラリーです。 1Fと3Fのギャラリーでは様々なイベントを展示・企画しています

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公開日:2021年9月13日

更新日:2021年9月17日

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