ジャズのレコード博物館

ジャズのレコード博物館_image

取材・文/井本貴明
写真/齋藤創太

厳選された5,000枚のレコードが、音を「聴く」から「体感する」へと導く

アナログレコードの魅力を楽しそうに語る館長の的場さん

アナログレコードの魅力を楽しそうに語る館長の的場さん

レコードに針を落として聴いてみる。
最高級のオーディオセットを介してレコードから流れる音は、目の前でJAZZバンドが演奏しているような気分にしてくれる。弦から弦へと移動する指の動きまで感じ取れるのだ。
その迫力と音圧は、音を「聴く」というより、体で感じる「体感」に近い。

これは、私が「ジャズのレコード博物館」で体験した出来事である。

「どの分野でも、アナログとデジタルには異なる魅力がある。音に関して言うと、究極的にはアナログの方が音は良い。デジタル音楽は記号化して、細かく見るとぶつ切りで録音している。アナログは、1つの線の連続である。人間が持っている聴覚が感覚的に聞き分けていると思う。アーティストが本当に伝えたいと思う音は、アナログの方が伝わると思う」
ジャズのレコード博物館の館長である的場敏訓さんは、アナログレコードの魅力をこう語る。

名張市にあるジャズのレコード博物館は、映像/オーディオ機器の販売をする的場さんが、お店の2階を利用して、一般の方が見学できるようにしている。
注意して欲しいのが、突然訪問して見学が出来るとは限らない。的場さんのタイミングが合えば見学ができ、的場さんの気分が良ければ、最高級のオーディオセットで鑑賞する事ができる。

現在、ジャズのレコード博物館には5,000枚ほどのレコードが存在する。全盛期は10,000枚ほどあったレコードの中から、時間をかけて厳選された5,000枚だ。

レコードを「集める」ことから「伝える」ことに変化。きっかけとは?

厳選された約5,000枚のレコードが並べられている

厳選された約5,000枚のレコードが並べられている

的場さんがアナログレコードと出会ったのは、ものごころがついた頃である。実家がオーディオのお店だったこともあり、当たり前のようにアナログレコードが生活の中にあった。
「小学生の頃、周りの人はラジオから音楽を聴いていたが、僕はレコードで音楽を聴いていた。当時は、映画『シェーン』『鉄道員』などの映画音楽から聴き始め、その後にポピュラー音楽に移行しました」
中学生の頃には所有しているレコードの数は数百枚になり、勉強はせずに音楽と文学に熱中していたと青春時代を振り返る。そして、社会人になり東京で働き始めると、給料の半分をレコードに費やすほどの状態になり、その数は膨大に増えていった。
「地方へ出張に行くと、その土地のレコード屋に行きます。そこには東京のお店では高価なレア盤が、安く買えたりするので楽しかった。毎回、出張帰りはレコードで荷物が重くなっていました」

東京でレコードを集め続けた的場さんだが、次第にレコードとの関わり方に変化が生じてくる。東京から生まれ故郷である名張市に戻ってきた時の話だ。
「周りの知人は、LPからCDに変わって、レコードを聴かなくなっていた。倉庫にレコードプレイヤーが眠っている状態で悲しかった」
そこで的場さんが行動を起こす。「モッタイナイ運動」を始めたのだ。

「いろいろな場所でアナログレコードのコンサートを開きました。レコードの機材を持ち込んで、神社の境内や街の銭湯屋などで。来てくれた人に、レコードを家に眠らせるだけでなく、もっと使おう、もっと聴こうと啓蒙活動をしていました」
そして、7年前から地元名張市のコミュニティFM放送局『FMなばり』にて、ロックとジャズを紹介する番組を始めた。番組内でかける音楽は全てアナログレコードである。今では他局のラジオからも放送されるようになり、90万人のリスナーを抱える人気番組になっている。こうして的場さんは、現在もアナログレコードの魅力を名張から発信をしているのだ。

「アナログレコードは若い人にこそ聞いてほしい。感性が豊かになるから」

スコットランドのLINN社のレコードプレイヤー

スコットランドのLINN社のレコードプレイヤー

的場さんがここまでアナログレコードにこだわるのは、どうしてなのか。
「私たちはアナログの良さを知って育った世代なので、若い世代にアナログの良さを伝える義務があると思う。今の若い人たちは余裕が無いように見える。せめてレコードに針を落とすぐらいの余裕を持って過ごして欲しい」

さらにこう続ける。

「若い人にこそ、アナログレコードを聴いてほしい。アナログレコードを聴くと感性が豊かになるから。デジタルのシャカシャカした音では、気持ちを豊かにするとは思えない。100円、500円で売っているレコードでもいい音楽がたくさんあるから、まずはレコードを聴いてほしい」
約1時間のインタビューの最後には、的場さんがチョイスした数枚のレコードを聴かせてもらった。
JAZZバンドの演奏は、目の前でその演奏を聴いているかのような臨場感だった。ジミ・ヘンドリックスのギターから出てくる音は、いつもよりエモーショナルに感じられた。

的場さんがここまでアナログレコードにこだわるのは、どうしてなのか。

的場さんがここまでアナログレコードにこだわるのは、どうしてなのか。

今でも問題なく動くのが驚き

今でも問題なく動くのが驚き

取材からの帰り道、私はいつものようにiPhoneで音楽を聴きながら歩いた。
そこから流れてくる音楽が、いつもよりも”軽く”聴こえる。
心を豊かにする音楽。
今度の週末は、自宅の棚に眠っていたアナログプレーヤーを引っ張り出したいと思う。

ーおわりー

取材中に、Jimi Hendrixの「Band of Gypsys」を聴かせてもらいました

取材中に、Jimi Hendrixの「Band of Gypsys」を聴かせてもらいました

File

ジャズのレコード博物館

名張市にあるジャズのレコード博物館は、映像/オーディオ機器の販売をするオーナーの的場さんが、お店の2階を利用して、一般の方が見学できるようにしている。
注意して欲しいのが、突然訪問して見学が出来るとは限らない。的場さんのタイミングが合えば見学ができ、的場さんの気分が良ければ、最高級のオーディオセットで鑑賞する事ができる。
ジャズのレコード博物館には時間をかけて厳選された5,000枚ほどのレコードが展示されている。

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公開日:2015年6月29日

更新日:2022年6月3日

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井本 貴明

いろいろなWebサービス作っています。 浦和レッズ、ヨーロッパサッカー中心の生活。 何か面白い企画があったら、ぜひ仲間に入れてください! 好きな映画は、「LOST IN TRANSLATION」。

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